CORNEILLE NOIRE+++1.When the screening is over, a theater is dark


 主人公の悲鳴が聴こえ、スタッフロールが流れはじめ、それに伴ってぱっと明かりが灯った。
このリヨンシネマ墨川は、6つのスクリーンを持つシネマコンプレックスを併設したショッピングモールである。
スタッフロールが監督を示して映写が終わり、他の全員が外へ出ても残っている二人の女子高生がいた。
「ちょっと、優ちゃん大丈夫?」
「うん……ちょっと頭がくらくらしちゃって」
少し顔色が良くないこちらは青島優という。
髪はセミロングで、今日は日曜日なので私服のTシャツを着てジーンズを履いている。この近くの高校に通う2年生である。
「R-15はキツかったかあ、流石に。ごめんね、じゃんけんで決まったとはいえ」
優を気遣うこの少女は洲田麻智子。優と中学生の頃からクラスは同じで、仲はずっと良い。
私服を選ぶのが面倒だったのか制服を着ていて髪は長く、闇のように黒い。
「違うよ、あんなシーンくらいで耐えられなかった私が悪いだけだって」
「いや、だって腕が逆の方向に曲がって、お腹からいろいろと出てたら優じゃなくても皆さあ……」
「うぅっ」
優が言ったシーンを思い出したのか、優は少し吐き気を催した。
「だ、大丈夫? とりあえずここにいたら空気も悪いし外出ようか。彩も志賀ちゃんも待ってるし」
「う、うん、そうだね」
優はなんとか立ち上がり、ふらふらしながらも麻智子に連れられて出口へと向かった。

 シネコンを出てまっすぐ行くと、ステッキを持ったおじさんの人形を店先に置く事で有名なファーストフード店が存在する。
そこで優と麻智子に加え、二人の少女もフライドチキンを頬張りながら会話に加わっていた。
「やっぱり斎藤監督の映画はスピード感がすごいなと思ってさ。で、そっちどうだったの?」
髪を茶色に染めている少女が麻智子に尋ねた。
名前は井口彩。短髪で、こちらも制服を着ている。
「いやぁ、怖かったよ本当に。優ちゃんなんか気持ち悪くなっちゃったし。終わり方はそんなに良くなかったけどね」
シネマコンプレックスは数年前に登場し、全国の人々に新しい映画の見方を提供した。
その一つが、グループで映画を観に行き感想を交換しあうというもの。
「そうだよ、私途中から全然ストーリーわかんなかった。体調悪くて頭入んないんだもん」
涙目の井口が同調する。
「私は宮川の説明する数学の方が頭に入らないけどなぁ。授業中にあのハゲは何を言ってるんだろうって一時間ずっと思ってる」
二年数学担当である宮川泰教諭はまだ若干36歳でありながら頭頂部に若干の禿が見られる。そして授業中はいつもジャージを着用している。
彼の授業への不満を漏らす少女は志賀聖。金髪のストレートで、長さは彼をあざけるようにロングである。
少し離れて座っている客の目にはピンク色のジャンパースカートがよく似合っているように映った。
「あのハゲ言うなって、わかんなかったら教えてあげるから」
「ホントかすだっち!二人きりでか!」
麻智子はクラスでこのようなあだ名を付けられている。
自己紹介で『洲田』と言ったら『すだちゃん』が『すだち』になり、呼びづらいので『すだっち』で定着した。
勿論親しみを込めたあだ名であり、全員とはいかないが皆と仲が良い。
「すだっちぃー、愛してるぞぉすだっちぃー!やってもやっても数学どうせわかんないけどなー!」
「志賀ちゃん周りの人も見てるから全力で抱き締めるのやめてあげて!すだっち窒息しちゃうから!」
最も、聖に関しては親しみが少し行き過ぎているのではないかと思われる程だが。
「別のことはヤッてもヤッてもどんどん……」
「あの……」
その時、志賀の暴走を止めるかのごとく青島が少し控えめに手を上げた。
「どうしたの?優ちゃん」
「いや、まだ頭がちょっとくらくらしてて。ごめん、先に帰っても良いかな?」
「あ、ああ。勿論いいよ。」
「ちぇー、付き合い悪いなぁー優ちゃん」
「あんたは黙ってなさい。一人で大丈夫?」
「大丈夫だよ、子供じゃないんだし。バスって何分だった?」
彩が腕時計を見て言葉を返した。
「次は35分の。違う系統のバスとか乗らないようにね」
「わかった、それじゃあ」
優は立ち上がって軽く手を振り、少しふらつきながら出口へと向かった。
「……優ちゃん、大丈夫かな」
不安そうな足取りを見て、麻智子は少し心配になった。
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