セッツァーは今のところ、独りだけ

放課後の音楽室で、私は二日目の吹奏楽部員としての活動をしていた。
「6月の発表会には、ベタですがこの『イン・ザ・ムード』を演ろうと思います」
楽譜を渡しながら部長は言った。
「新入生でもちょっと頑張れば出来るように編曲してあるのを持って来た……つもりなので、頑張ってくださいね」
他の新入生が質問をした。
「部長、これってどんな曲ですか?」
「そうですね、大体聞いた事があると思うんですが……参考のCD掛けましょう、か」
部長はそう言ってCDをセットすると、音楽が流れはじめた。ノリのいい、どこかで聞いた事のある曲だった。
トランペットなんて初めて持ったけど、この曲が本当に吹けるんだろうか。
「とりあえず、やった事の無い米原さんと小野寺さんはマウスピースの練習から始めましょう」

「うん、うまいうまい。筋がいいのかな」
練習を始めてから30分くらいした頃。
「部長、あの人って……なんですか?機材室入ってるんですけど、うちの部員じゃないですよね」
「あの人?」
置いてあったギターを弾いているようだ。
アンプすら通していないものの、近い場所なので少しならば聴こえる。
「あぁ……軽音楽部、作ろうとしてる、みたいな」
「みたいな?」
「去年……いや、一昨年だっけ? 前まで一緒の部だったんだけど、人数が少なくてね」
「潰れちゃったんですか」
「そういうこと。別に一緒にやってもいいんだけど、顧問の先生が駄目だって言って」
「なんで駄目なんですか?」
「プライドが許さない、とかまぁ、そういう感じ。人数集まれば別に大丈夫だと思うけどね。
 それじゃ、曲に入ろうか。イントロの所は難しいけど、まだゆっくりでいいから吹いてみよう」

数週間後の合同練習に機材室から聴こえたギターのフレーズは、私の吹いた旋律を少しだけ辿ろうとしていた。
さらに、その後文化祭では吹奏楽部と軽音楽部は合同コンサートを行うわけだけど、それはまだ先のおはなし。