夢なんてなかった

でも、ただ一つだけ願いがあった

花火のように散っていくあたし達の最後の中学生活

きっと、願いは叶うはず。







      星に願いを






「じゃ、今日の花火大会午後5時に有田公園前で」

「OK−」




今日は8月31日。夏休み最後の日。

みんなは切羽詰って、宿題をやる日でもある。

でも、そんなときの風物詩は夏最後の市がやる花火大会。

どうやら資金も花火師も年々減ってきたと言うことで今年で最後になったらしい。





「由比。どこで待ち合わせする?」





松阪 由比。それがあたしの名前だ。

中学3年の夏。みんながみんな夏期講習やなんたらで忙しいこの時期に

学校で行われた勉強会にあたしは今来ていて。

で、今喋りかけたこの子はあたしの友達。斎条 桜子。

頭もよくて勉強会では常に教える側の立場。

受験なんて余裕☆みたいなオーラが出てるのも分かる。

まぁそれは有名な進学塾があるからかもしれないし、

でも本人は絶対「受験は余裕」なんてイヤミなことも言わない。

そういういい子。人柄もよくて、でもあんまり活発ではないところもいいところかな。




「ちょっと、聞いてる?」

「あぁ、ごめんごめん」

「もしかして、あの人が来るから由比ぼーっとしてるんじゃない?」



桜子が言うあの人っていうのは加藤 俊輔っていうあたしの好きな人。

サッカー部で忙しい夏を終えて今勉強会で最後まで残っていて、

で花火大会みんなで一緒に行こうって言い出したのもコイツ。

花火大会はみんな合わせて5人で行く。女3人男2人。まるで合コンのような感じで。

釣り合いが取れているからそれはそれでいいんだけど。



「浴衣きていこっかなー」

「あー、灯はノリノリだねー」

「勿論、だって中学最後の夏だよ?
 夏期講習でまともに遊べてないんだから。
  思いっきり遊ばないとね!」



女最後の1人は秋宮 灯。

この子は桜子と正反対。クラスの中心人物でもあって結構みんなから好かれてる存在。

それが気に食わなくて陰口とか言われてるけどそういうのを聞いたらほっとかなくて

『 そんなことも影でしかいえないの?本人の前で言える度胸もないんだ笑 』

っていう、手紙をよく陰口を言う子のゲタ箱に入れることがある。

明るいタイプ 静かなタイプ そして普通のあたし。

そんなまちまちな性格なんだけど結構均衡が保たれてるようで、あたしたち3人はずっと仲がいい。




「んじゃ、そろそろ帰ろっかー。あ、絶対有田公園5時にこいよ!」




加藤が言う。よほど楽しみにしてるんだろうな。

そんな輝く顔に見とれていたあたしの代わりに灯が返事をしていてくれた。

5時に集まるっていっても始まるのは7時。2時間なにするんだろ。とか笑いながら話し合ったり。

そんなこともあって、時刻は4時半になった。



「じゃ、そろそろいこっか」

「そだね」



一旦家に帰っていたあたしたちは普段着のままで自転車で有田公園を目指した。

トロトロ、

後ろから自動車がきていたら絶対クラクションを3度は

鳴らされるぐらいの遅いスピードで話しながらこいでいた。




「おそいぞー!今何時だと思ってるんだ!」



男子の1人 林 竜太 が腕時計を指してどなってた。

公園の時計を見るとまだ50分。



「そんなに早く来てなにすんのよ!」

「場所取りに決まってるだろ」



ニカっと笑って林はこぎはじめた。それにつられるように加藤がこぎはじめる。

またトロトロ運転を始めて、みんなで喋りながらいく。

桜子と灯はあたしに気を使ったのか、林と一緒に喋り始めた。

あたしもすぐに加藤の隣に行って喋り始める。



「あれ、かごに何いれてんの?」

「あ、これ?花火終わってまた公園戻ってきて普通の花火しようかと思ってさ」

「9時まで打ち上げ花火あるんよ?その後またって」

「中学最後の夏だろ。これぐらいでもしないとさ、思い出に残らないじゃん」



あたしは加藤との思い出があればそれでいいんだけどね。

そういいたい気持ちを残して、花火大会開場「大蔵河川敷」についた。

そこにはもう場所取りをしてる人がいっぱいいて少し賑っていた。

堤防から見ると下のほうには屋台やなんやらがいっぱいあって、そこに買いに行く子どもたちもいた。




「どこで見る?」

「階段でよくない?」

「あたしもシートなんて持ってきてないよ?」

「あー、それは大丈夫。桜子が持ってきてるから」

「結局お前等は人任せなんだな」

「っそれはなにより、もう少し向こうで見たほうがキレイだぞ」



林が指差して打ち上げ花火の少し前の開場をさした。



「えー、あそこってちょっと危なくない?」

「危ないところを開場にはしないって」

「そだね、じゃあそこにしよう」



そういってまたみんな自転車をこぎはじめた。

歩く人が多くてこぎにくいのだけど、何とかその場所に着いた。

周りを見ると、カップルや親子・おじいちゃんおばあちゃんなんかいろいろいた。

マァ同級生はまだ見てないけれどね。



「じゃ、この辺で桜子シート敷いて」

「あーい」



そういってバッグから大き目のブルーシートを出して敷き始めた。

加藤と林はそこらへんの石を集めて四隅において風に飛ばされないようにした。

周りはまだ場所とりはしてないようで、ただ人がうろうろしているだけだった。




「で、今の時間は?」

「五時半。それまでなにすんの?」

「だべる」

「それだけかよー」

「大丈夫、一応あたしお菓子持ってきたし」

「ま、ジュースは買ってこようか、あたし行ってくるよ」

「あ、よろしくー」




大人数で行くことはとても楽しいもんだ。

そんなことを思いながらあたしは自転車を走らせようとした。




「俺も行くよ」



加藤が言って、自転車でついてきた。

この上ない幸せなことだけどなぜか素直になれなくて。



「1人で大丈夫だから」



と、言ってしまった。




「そう言うなって、お前重いもん持てないだろ」



そういって笑ってついてきてくれた。

こういう優しいところにあたしは惚れたんだなって思えた。

なにより輝いてるその表情が一番スキ。

一度「スキ」っていえればそれでいいのに。

この機会が最後・・・なのかな。












コンビニに着いて二人で自転車を止めて一緒に入る。

こんなことが恋人と同士になったら・・・と思ってしまう。

だって、隣にいるんだから。




「これでいいよな」




カゴに5・6本入った1.5リットルのを指差して言った。

こんな入ってるのに軽がると持ってるんだから、すごいなぁ。

ついでにパッパッと紙コップを入れた。




「よくそんなこと気が付くなぁ」

「当たり前。当たり前。」




そういってレジに行く。あたしがお金を出そうとしたら加藤が出してくれた。

いいよと言って、払ってくれた。なんかすっごいかっこよかった。

みんなのところに戻ると加藤には普通に接するのにあたしの時はにたにたと気持ち悪い笑いをしてる。

『悪かったな!』とか心で呟きながらまた喋った。

時刻は6時過ぎ。あと少しで花火大会が始まる。





「でさー、宮坂が・・・」





" ヒュー・・・ バン "




一発目の花火が打ちあがった。

いよいよ始まった打ち上げ花火大会。

心に刻むように、目に焼き付けるようにあたしはそれを見ていた。

加藤は隣にいて花火が花開くたびに加藤の顔がパッと照らし出されて

それはまるで加藤の為に咲いているように見えた。

スポットライトのように加藤の顔が明るくなる。

『ん?』とこっちを向いて焦ってしまった。

「俺の顔は花火みたいにきれいじゃないぞ」

と、笑って言ってくれた。

花火以上にカッコイイって心の中で呟いた。

また、あたしは心に刻むように8月31日の思い出を作るために花火を見続けた。





「あ、そろそろ終わるよ」





桜子が誰にではなく言った。

時刻は8時55分。あぁ、もう終わってしまうんだ。

もう今年で最後の打ち上げ花火が・・・。



最後の花火はとてもきれいに花開いた。

大きなその花は儚く散るのにも関わらず懸命に花開いて、そして夜空に消えていく。

胸を打つ大きな"ドン"という音が体中に響いた。



これで、打ち上げ花火が終わった。







「あー、よかったねー」

「最後の花火、なんか哀しかった」

「あーそうそう。なんかねー・・・」

「これで終わりだなんて思うと哀しくなるよな、っていうかなんか切ない」

「林がそんなこと言うと変ー」






あははは、とみんなで笑う。

道には人がごった返しているので自転車は押すことになった。






「あー、そうだ。あたしもう帰らなくっちゃ」

「え?あれ、花火・・・」

「ごめん、そんな時間無いんだ。あたしまだ勉強終わらしてないし」

「あー、俺もだ。ごめんな、あとは加藤と二人でやってくれ」





そういって道が開けた道路で言われた。

押していた自転車をまたいでみんなが遠くへ行ってしまう。

その場で固まっていた、あたしと加藤はしばらく顔を見合わせていた。





「・・・9月入ってもな。どうしようもないから二人でやっちゃうか」

「・・・・・・・そうだね」




そういって有田公園に戻った。

誰もいないその公園はひっそりとしていて、すごく告白するにはいい雰囲気だった。

ベンチに座って加藤がろうそくに火をともして地面に置く。

花火を一袋開けて、準備完了。



「とりあえず、やろっか」



ってことで、あたしに手持ち花火を差し出した。

それを受け取ってろうそくで先端部分を燃やした。

すぐにバチバチっと音がしてきれいな緑色の火花が散った。

それはすごくキレイで、また打ち上げ花火とは別のキレイさが出ていた。

加藤の顔を見るとまた打ち上げ花火とは違う輝きがあった。

花火を持ちながらきれいに笑うそれは今までで一番輝いて見えた。



「一袋で終わらしておくかー。ね」

「そうだね、二人であんまりやってもね」



そういって二人でベンチに腰掛けた。

花火の焦げ臭い匂いがまだ漂う公園でロウソクの灯が辺りを照らしていた。

空を見ていると打ち上げ花火後の雲は出来ていなくて、満点の星が夜空に有った。

8月最後の日を神様が彩っているみたいで。

星に願いを。その言葉が頭にひらめいて、祈ってみた。




" どうか、あたしが告白できる勇気をください "




「・・・」

「・・・」




二人ともが無言になるときに、あたしは重い口を開いた。

永遠ともいえる長い時間。





「・・・付き合ってくれない?」

「え?」






加藤が間抜けた顔であたしを見た。





「スキなのよ、あんたのことが」













「 分かった。じゃ付き合おう 」








8月31日 その日あたしにとって忘れられない日になった。

大好きな人たちと過ごした打ち上げ花火。

一番大好きな人と一緒に遊んだ花火。


そして、あたしが告白したその夜のことをあたしは絶対忘れたくはない。



ずっと ずっと ・・・。