◆鬼の事情◆
-怪事件編-
【1】
葉月の家、薫宮家は神社をやっている。家族は母親と父親、あと母親の父親、
つまり葉月から見れば祖父が一緒に暮らしており、
祖母の方は葉月が小さい時に死んでしまった。
しかし、その4人以外にも実は葉月の家に住んでいる人物がいる。
「 おい、葉月なんだその髪の毛、なんか茶色いぞ。さてはお前染めただろ。
学生のくせに髪の毛いじっててどうするんだよ。
お前も今年高校2年生なんだろ?そろそろちゃんとしないと。 」
葉月にこうやって毎日小言を言う、この人物が同居人の1人
口調はこんなんだが一応性別的には女ということになってる
背も葉月よりだいぶ低くて見た目の年齢は葉月と同じか少し上くらいに見える
「 うるせーなー、いいだろ別に目立たない程度なんだし
茶色っていうよりこれ焦げ茶だぜ?しかもアッシュ風味の。
縞(しま)は最近のファッションに疎すぎるんだよ。 」
そう葉月が反論すると、縞と呼ばれた薄紫色の着物姿の女は口の両端をニーッと上げ
懐から何かスプレー缶の様なものをとりだしてきた。
「 そ・・・それは、まさか・・・! 」
「 ほぉー察しがいいなぁ葉月、これは最近新発売したとかいう
スプレー型の髪染めだ、なんでも髪の毛にスプレーするだけで手軽に髪の毛が染まるらしい。
いやぁ最近は本当に便利な物がでるよなぁ、昔と大違いだ。
今日薬局に、タマタマ行ったらお試し価格で20%OFFだったんだよ。
ついつい買っちゃってさ、そしたらお前の髪の毛が茶色だろぉ?
しかも偶然にも、これ黒色なんだよ。
ホントウニグウゼンダヨナ
これはもう神様の思し召しと思わないか? 」
ニマニマいやらしい笑みを浮かべながらスプレーをシャカシャカ上下させる姿に、
葉月は邪悪な物を感じた。
「 何が偶然だよ!お前絶対それが目的で薬局いっただろう!絶対そうだ!
最初から俺の頭に目をつけていたんだろ!くそー折角頑張って自分で染めたんだ、
そんなお試し価格で20%OFFだったスプレーなんかに黒くされてたまるかよー! 」
猛烈に抗議しながら、葉月は自分の部屋へと向かって走った。
” 真っ黒にされたらあの髪染めの苦労は水の泡だ! ”
神社兼、住居の葉月の家はさすがに広い、というよりも廊下が長い。
そんな長い廊下を走りぬけ、あと数メートルで部屋のドアに到着するという所で、
「 あー!葉月のパンツが風でとばされて庭にとんでるー! 」
という叫びに葉月が一瞬左手にある庭へ気をとられていると右肩を何かが掠めた
それと同時に目の前に縞が立っていた
「 くっ・・・!卑怯だぞ縞!それでもお前人間か! 」
「 なんとでも言うがいい、これが戦法という物なのだよ葉月君。
まぁ悔しかったら私より早く走ってみるんだな。 」
ニンマリすると、縞はまたスプレーをシャカシャカ振り始めた。
「 チクショウ!本気で走る鬼に勝てる訳ないだろ! 」
葉月が言った通り縞は鬼である。鬼といっても本にでてくるような禍々しい感じではないが、
色々事情があり、角の生えた鬼になってしまったと葉月は祖父から聞いていた。
いわば物語に、良く出てくる夜叉という者といえばわかりやすいだろうか、
人間の姿の時と違い目は赤、髪の毛は白髪に近い灰色、銀色とも言えるかもしれない。
その銀色の頭からは、赤い角が二本左右にそびえたっている。
常人がこの姿を見れば、驚いて腰をぬかすか、コスプレイヤーかなんかだと思うに違いない。
そんな姿で葉月の茶髪を狙っている縞は、まさに鬼畜といえよう。
鬼は、さぁ観念しておけと言い放ち、スプレーの蓋を開けた。
” あぁ・・・もはやここまでか・・・
さようなら、俺の茶髪。
さようなら、俺の1260円・・・ ”
と葉月が覚悟を決めたその時、騒がしい足音が葉月達に迫ってきた。
「 おねえちゃん〜〜〜!!!助けて!おねがい〜こっちきて〜! 」
「 うわ!なんだ少華!一体何事だ!? 」
「 台所にね、ゴキが・・・ゴキブリがいるのよぉおお。
いつ飛んでくるか怖くて晩御飯作れないわー、おねえちゃんどうしようー。 」
縞をお姉ちゃんと慕い、ゴキブリごときに泣いているのは、
葉月の母親で少華(しょうか)。
もう40手前なのに、廊下は足音をたてて走り10回に2回はこけ、そのたび泣いている。
そんな母親を持つ葉月はわが親ながら、この先どうなるのか激しく不安だったりする。
しかし、そんな母親でも今は茶髪の救世主。
これ幸いと葉月は縞の隙をついてドアまでたどり着き自分の部屋へ逃げ込んだ。
「 あ!この野郎!葉月でてこい! 」
縞の声がドアの向こう側から聞こえてくるが、入ってしまえばこっちのものといわんばかりに、
葉月は鍵をしっかりしめるとベッドに横になった。
葉月の家はずっと昔から神社をやってきた。
縞がこの神社に住むようになったのは、葉月の祖父の子供の時から
本当の年齢はよくわからないが、160歳はいっていると葉月は聞いた事がある。
葉月が物心ついた時から縞はあの姿で、葉月が小学校に行き
中学校にあがって、高校に入学して身長を増やしていっても、
縞はずっとあのままである。
葉月の母親や父親は縞を呼び捨てにしては駄目だと五月蝿く言うが
葉月はどうしても縞に「さん」をつけるというのがむずがゆくてできないでいる。
” 部屋の外が静かになったみたいだな・・・ゴキブリ、解決したのかな・・・ ”
と葉月はお腹がすいたのも有り、母親達の様子を見に行く事にした
それでも一応念のために帽子をかぶった
台所では縞と母親の少華が、夕食の用意をしていた。
なんだ解決したんだ、と思った矢先。
” きゅるうぅ〜〜〜 ”
と醤油と砂糖の煮詰まる香りに葉月の胃袋は悲鳴をあげてしまった。
「 あぁ・・・腹減ったな・・・。 」
そう葉月がつぶやくと縞がこちらに振り返り、眉間にシワをよせて口を開いた。
「 まったく帽子までかぶりやがって、そんなに髪の毛を黒にされるのが嫌なのか葉月。
お前がそんなに嫌なら今回は見逃してやるが、それ以上茶色くなるようなら
速攻寝込みを襲ってでも黒くしてやるからな。 」
あらやだお姉ちゃん、寝込みを襲うだなんて大胆ね。とクスクス笑う母親少華をよそに、
縞は後ろ手で何かが入った袋を葉月へ差し出した。
「 ?なにこれ?くれんの? 」
「 私が昼間に作っておいたおやつだよ、お前あの髪染め買ったせいで
おやつを買う金も無いんだろ、これでも食って晩飯待っとけ。 」
” げっばれてたか・・・鋭いから怖いよ。 ”
袋を渡されて、あけてみるとその中にはパンの耳を細く切り、
油であげて砂糖をまぶしたカリントウらしき物が入っていた。
「 ・・・・・・これ、縞が作ったのか。 」
「 そうだけど? 」
「 縞は作るおやつまで古臭いな。 」
「 茶色にそめる髪の毛がなくなるくらい、このとってもアッチッチな
フライパンでその頭と失礼な口を叩いてあげようか。 」
「 あ、ありがたくいただきます! 」
葉月はそのまま台所を後にして、部屋に戻りTVの電源を入れた。
画面の中では最近起こっている、怪事件についての特集をおもしろおかしくやっている。
怪事件といっても、いきなりガラスが割れたとか、太い木が一晩で何本も折れていたとか、
そんな他愛もない物だ、それくらいしかこれといって特集にするネタが無いのだろう。
葉月は袋にはいった、砂糖が一杯まぶされたカリントウを砂糖だらけになった指で口に入れた。
「 ・・・うめぇ。 」
口に入れた途端に広がる砂糖の甘さとパンの耳にしみこんだ油が、歯でかみ締めるたびに
舌と胃袋を喜ばせてくれた
「 もぐもぐ・・・こんな怪事件なんかより、俺の家の方がよっぽど怪事件だよな 」
葉月は馬鹿騒ぎしているTVの中の人間達をながめながら
夕食ができるまで、しばしの甘い時間をすごす事にした
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