◆鬼の事情◆
-双子剣士編-
【1】
おかしいほどに空からふりそそぐ紫外線と熱光線
その熱を照り返す砂浜に、上から下からくる熱で脳みそが溶けて耳からたれてきそうな暑さ
風にのって鼻に通る塩の独特の臭い
時は夏休みに入ったばかり
葉月達は今 海に来ている
---1時間とちょっと前---
「 やっほー!縞ー! 」
遠くから聞こえる大声にクーラーのタイマー設定も先程から稼動し始めて
やっと安らかな眠りにつけると思った矢先。薫宮葉月(かみやはづき)は起こされた。
葉月は高校2年生の16歳、健全な男子で忌々しい期末テストも終えて今まさにグウタラのエンジョイ中。
ダダダダダダダダ!
騒がしい足音がバーンという音と共にドアから入ってきた。
「 うへーやっぱり兄貴の部屋は朝から涼しいんだな〜うらやまし〜 」
入ってきて早々、部屋の床で大の字になって寝転び、葉月を兄貴と呼ぶのは
野田年雄(のだとしお)、通称年雄と呼ばれており野球帽をかぶっていて
身長も高めで見た目からしてガキ大将ぽい奴
「 んもう、としおったらいきなり行儀がわるいよっ 」
としおの足を叩きながら葉月に頭をペコリと下げる女の子は
黒川真美(くろかわまみ)、通称:真美ちゃん。腰くらいまである黒髪と大きい黒目が印象的な女の子だ
「 まったく、まだ気温が比較的低い朝からエアコンなんて地球に優しくなさすぎだよ 」
とチクリと嫌味を言う眼鏡は小山靖(こやまやす)、通称ヤスと呼ばれている
髪の毛はしっかり切りそろえられていて、洋服もなんとなく制服みたいにビシッと着こなしている
キャラ的にも一番頭が良さそうだ
ちなみに葉月の事は”葉月さん”と、さん付けで呼んでいる、何処と無く子供らしくない
「 もう!皆なんで一直線にお兄ちゃんの所にくるんだよ!迷惑じゃないか、お兄ちゃんごめんよ 」
少し遅れて部屋に入ってきたのが珠木信二(たまきしんじ)、みんなからはシンとか信二と呼ばれてる
グループの中では一番の常識人ではあるが、どことなく天然が入っている。
髪の毛はこげ茶色で前髪は真ん中分け、別に染めてる訳ではなく生まれつきらしい
フード付きの洋服が好きとの事で、大概の普段着にはフードがついている。
葉月のことはお兄ちゃんと呼ぶ。
最近この4人組はよく薫宮家に遊びに来るようになり、
葉月もなんだかんだで相手をしている内にどうやら好かれてしまったらしい
なんでも信二が縞と最初に知り合ったらしく
そのまま数珠繋ぎでやってくるようになった。
全員小学3年生
” なんや騒がしいですなぁ ”
「 んだよ暑いと思ったらお前布団に入ってたのかよ 」
葉月が布団をめくると尻尾の付け根に赤い紐を巻きつけている黒猫がだるそうに大あくびをした
” いやぁ葉月はんの所丁度ええんですわ、毎日朝でも暑いでっしゃろ
なんぼ猫はぬくいのが好きちゅうても限度がありますわ
そやけどやっぱり布団にもぐらな直接エアコンは体に悪いさかいな ”
猫がなに人間臭いこと言ってるんだか・・・
この猫はセツと言って数ヶ月前に色々あって我が家の住人となった、いわば化け猫である
本人(?)は何年生きたかを詳しくは語ろうとしない
分かっている事は関西に長く住んでいた事くらいだ
こいつは喋りはしないけど頭に直接言葉を送ってくるしこっちの考えてる事を読む
テレパシーと言えばわかりやすいだろうか
なんでもそこそこ霊感が強い人間じゃないとテレパシーも送れないとか
葉月自身あんまりそういうのを気にした事がないのでわからない
とりあえずわかっているのは、こいつが傍にいるとプライバシーも糞も無いって事だ。
「 鬼に化け猫・・・ほんと、類は友を呼ぶってよく言ったもんだよ・・・ 」
「 あ、セツ〜おいでおいでおはよう〜v 」
真美ちゃんがセツを見つけて手招きをしている
” あぁーぁ面倒臭いけどこれもサービスですわなぁ
猫として生まれたからには愛想ふりまいておかんとね ”
「 んにゃ〜 」
セツはそう溜息まじりに言うと信二達の方へ移動した
セツの事は言っても仕方がないので4人には言っていない
「 おい、お前ら縞に用事があるんだろ俺はもう一回昼まで寝るから
適当に縞と遊んでこいよ... 」
葉月は今寝るのに忙しいと言った風にもう一度寝ようとした
そんな葉月のだらけぶりに信じられないといわんばかりに真美ちゃんが一声あげた
「 えー!こんないい天気なのに葉月にい殆ど寝て過ごすの!?勿体無いよ! 」
確かに、昼までといっても起きるのはきっと昼の3時過ぎくらい、
1日の大半寝て終わってしまうといっても過言ではない。
「 べつに特に何も今日は予定ねぇしぃ・・・ 」
「 予定ないの!? 」
”予定がない”という言葉に4人は食いついてきた
あぁやべぇ・・・俺まずい事いっちゃったかも
「 い、いや、やっぱ予定あ 」
「 それなら一緒に泳ぎにいこ!いこ! 」
「 予定ないんでしょ!?いこうよ!ねぇお願い!いこう! 」
「 寝てばっかりだと体にもよくないっていうし 」
「 お兄ちゃんも一緒なら楽しいもんねー! 」
葉月は予定はあると訂正しようとしたが時すでに遅く、4人組の勢いに負けてしまった。
「 んえー今からかよー・・・どこのプールにいくんだ? 」
折角の夏だし、プールに行くのもいいかもなと葉月も正直まんざらではなかった
「 泳ぐイコール プールなんて小さい発想だよ葉月さん 」
ふふんと鼻をならしながらヤスが言うと、年緒が目を輝かせた
「 海にきまってんじゃーん!! 」
「 うぇ、海かよ・・・ 」
葉月はプールはいいが海は嫌だった。塩水は普通の水で泳ぐよりも体力がいるし
それにプールは学校のとか近所にいくつかあるが
ここから海はバスで一時間はかかるからだ
「 海なら、俺いいや・・・めんどくせーし 」
葉月がそういって手をふると4人は一気に落胆の表情を浮かべた
「 そういわずに一緒に行ってやれよ、どうせ今日一日暇だろ 」
開いたドアのそばに、肩までの黒髪に、薄紫の裾と丈の短い着物を着た
目つきの悪い女がオボンに氷の入った麦茶を5つのせて立っている
「 あ、縞ありがとう〜! 」
縞から配られた麦茶を小さい4人は嬉しそうに飲む
「 ほら、お前もこれ飲んでシャキッとしろ 」
突き出された麦茶の中でカランと氷が鳴る
縞は年齢は18歳で葉月より年上で従姉妹、表向きそういうことになっている
なっている、というのも縞は18歳ではないし従姉妹でもない。
本当を言うと縞は160歳を超えている
しかも普通の人間ではない。
まだ普通の人間だった頃に何かがあって、鬼になってしまったらしい
詳しくは知らないが、それから葉月の家に縁があって一緒に住んでいる。
普段はこうやってできるだけ人間の姿でいるが
家族の前では殆ど鬼のままでいる
鬼といっても、髪の毛と目の色がかわって角が生えるくらいで
妖怪大辞典などに出てくるおどろおどろしい物ではない。
勿論そんな事他人には言えないし、言った所で信じてもらえる話でもない
しかし信二が縞とであったのが鬼の時だったらしく
最初は他の3人にも秘密にしていたのだが、どういう訳か悪い事が重なりばれてしまった
幸いな事にこの4人は今時の子にしては口の堅い奴らで、秘密は守り通せている
実は、自分達だけの秘密が嬉しいというのが、4人の思いだったりする
「 ありがと・・・ 」
香ばしい香りと冷たい麦茶が喉を通って完全に葉月を覚醒させた
水分が内臓に染み渡っていくようだ
4人組は葉月の部屋にある漫画の雑誌とセツをおもちゃにワイワイ盛り上がっている
「 実は今日、こいつらを連れて海に行く予定でさ、待ち合わせをここにしてたんだよ
私も海なんて最近全然行ってないし、行ってみたいなと思って。 」
「 へ〜そうなんだ 」
「 だけどさ、今さっき私すごく重要な事に気づいたんだよ葉月 」
縞は真面目な顔をして葉月の傍へにじりよって
お互いの鼻がくっつくくらいに近寄ってきた
「 な、なんだよ、重要な事って・・・ 」
「 海への行き方を忘れた 」
「 は!? 」
小さくそう言うと縞は人差し指を口にあてて静かにという格好をした
「 海周辺の事はわかってるんだけどどうやって行くか忘れたんだよ。なぁ、お前一緒についてきてくれよ 」
「 い、いやだよなんで俺が一緒に 」
「 なぁ 」
ガッ
「 ひっ 」
「 毎日遅くまで寝てるお前の微妙な時間に作らなきゃいけない飯の用意や
変な時間に出される洗濯物を洗うのや
陽がでてる時間がのこりわずかな時にしかほせない布団を干すの
一体誰が や っ て る ん だ と 思 う ? 」
「 ひっひいいごめんなさいごめんなさい!行きますから頭を潰さないでください!! 」
” ひひひ、縞はんに言われたら葉月はんもタジタジですなぁ
安心しなはれわしが代わりのその布団で寝といてあげますさかい ”
「 うぅっ ちきしょうぅ 」
こうして葉月は、自分の意思とは反して海へやってきたのである
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