◆鬼の事情◆
-双子剣士編-
【3】
ポッ ポッッ ・・・パタパタパタザーーーーッ
白い雲しかなかった空にどんどん薄暗い灰色が占領していく
強い紫外線を放っていた太陽も隠され暗い暗い空から雫が落ちてきたかと思うと
それはシャワーの様に乾いた砂や土、コンクリートの道に落ちていった
その雫もいまや大粒の水の塊になり、窓をこれでもかと忙しく叩いている
「 うーわー本当に降ってきたよ!葉月にいすんごいね〜当たったよ! 」
「 あぁ本当に降ってきちゃったな・・・ 」
「 なんだよ葉月さん、自分で降るって言っておきながらその言い方 」
「 んーまぁそうだな 」
葉月は考えていた。そういえば俺って結構皆に「勘がいいよな」とか言われてきたけど
なんだかなー・・・
まぁよくある事だよな、ちょっと勘がいい奴なんて別に珍しくもなんともないんだし
それが何か特別な力とかいったって、所詮天気予報だし。負におちないがなんとなくそういうことにしておこうと葉月はごまかした。
カラッ
「 お待たせしました〜カレーうどん一つに、かき揚げセット2つ、ラーメン餃子セットに
天ざるセット、オムライスです〜カレーうどんの方はぁ・・・ 」
「 あ、こっちでーす! 」
木の引き戸があけられて、中年のおばさん店員数人がおいしそうな臭いを運んできた
信二が嬉しそうに割り箸を割ってカレーうどんの香りを楽しんでいる
そのカレーのにおいが個室の団体部屋に充満していき
あぁたまらないと全員がそう思った。
「 信二のカレーうどんすごくいいにおい〜私もカレーうどんにすればよかったかも〜 」
「 それじゃカレーうどんちょっと分けてあげるから、真美ちゃんのオムライス一口ちょうだい 」
「 やった!いいよ〜! 」
「 お、俺も餃子あげるからオムライスちょうだい! 」
「 えー俺だってカレーうどんとオムライスと餃子ほしい、天麩羅とかえっこしようぜ 」
信二と真美ちゃんのやりとりを聞いていたヤスが慌てて間に入る、
そこに年雄もまた加わって、机の上で天麩羅や餃子が飛び交っている
年雄は本当にただ食べたかっただけかもしれないが、葉月が推測するに
ヤスは真美ちゃんに”ほの字”に違いない
「 ほの字って古くないか 」
「 え!心読まれた?! 」
「 ばーか、お前が口に出してたんだろうが 」
隣の席に座った縞は、溜息まじりにシシトウの天麩羅をサックリとかじった
縞は色々男らしくてガサツに見えがちだが、実は食事などの作法はしっかりしている
食べている時はいつも寡黙で、話しかけれれば返すが、自分から話しをする事は滅多にない
ちなみに、お茶碗のご飯粒も一つ残さず綺麗に食べる
食べて黙ってる時は、本当おしとやかな奴なのになぁ葉月が少し縞にみとれていると縞がそれに気づいた
「 ん?何?・・・天麩羅欲しいか? 」
「 あ、い・・・いやいいよ、俺かきあげあるし 」
そっか、と言って縞はまた食事に戻った
「 ヤスったら!ピーマン残しちゃ駄目!ほら、口あけて!年雄おさえてて! 」
「 うわーやめてーーー!ピーマンだけは嫌ー! 」
「 だけどさ、縞よくこんなちゃんとした食事処知ってたよな。海からちょっと離れてるけど
個室にまで通してもらえたし、冷房もちゃんと効いてるし
値段もそんなに高くないのにすごく作りが豪華で、見た時は正直腰がひけたよ。
料理も和洋折衷なのに手抜きじゃなくて美味しかったし。 」
食事が終わって食器も片付けられたが、雨があまりに強いので
「 きっと通り雨ですから、止むまでこちらでやすんでいってくださいね、どうせすいてますから 」
と店員もいってくれたので、それならとお言葉に甘えてとダラダラしている
信二達4人組は満腹と泳ぎ疲れからか、それぞれ座布団を枕にして静かに寝息を立てている
「 昔はよくここらへんに来てたからな、剣道を習いに 」
「 え!剣道!?習ってたの!? 」
葉月が驚いて聞き返すと縞は、あぁと答えた
「 お前も来たことあるんだぞ、昔一回だけ 」
「 え?いつ?覚えてないんだけど・・・ 」
「 お前がまだこんくらいの時かな 」
あぐらをかきながら手を自分の肩より低めくらいの高さにあげると
あの頃はかわいかったなぁと縞は目を細めた
「 お前の爺さんの爺さん、お前にとってはひいひい爺さんになるけど、
剣道の有段者でさ結構腕のたつ人だったんだよ、
”剣の道に携わればお前の乱れ気味な精神も少しは和らぐだろう”
とかすすめてくれて。
最初は本当に暇つぶし程度だったけど、段々本気になってきちゃってさ
それなりに上達していったんだけど、間に戦争もはさんでゴタゴタして
ひいひい爺さんも高齢になって私の相手できなくなっちゃったんだ
それならと、ひいひい爺さんは昔からの知人の息子に剣道を
教わりにいってこいって紹介してくれてさ、その人は私の事情も
全部把握した上で剣道を教えてくれたんだ。 」
「 へぇ〜まじで、どんくらいやってたんだ? 」
「 んー、そこで習ったのが40年ちょっとかな 」
「 よ!よんじゅうねん!!! 」
さ、さすが習う年月も半端じゃねぇ・・・
むしろよくそんなに続いたなぁと葉月は感心した。葉月ならきっと3日続いたら良い方だろう。
「 いやー長い事やったおかげで、剣道も結構な腕前になったし、
おかげで自分にも色々自信がついたんだ 」
「 そりゃそんなけやってればなぁ・・・
あっそういえばさ、俺がここに来た事あるってさっき言ってただろ 」
「 あぁ・・・さっき言ってた剣道を教えてくれた先生が病気で
寝たきりになってるって聞いたから一緒に見舞いに来たんだよ
あの時お前が家を出る時に色々駄々こねだして大変だったよ・・・ 」
縞はそこまで言うと、窓をジッと見つめて黙り込んでしまった
「 ・・・縞?どうした気分でも悪いのか? 」
「 ・・・あの日もし、葉月が言った言葉を気にして成城先生の所へ行かなければ
あんな事にはならなかったのか、それとも・・・ 」
「 あんな事? 」
「 お前本当になんにも覚えてないんだな、まぁ仕方ないか小さかったんだし 」
「 えーなんだよ気になるじゃん、なになに? 」
「 別におもしろい話しでもないよ 」
「 んだよ、気になるような話をしだしたのそっちのくせによーなぁ頼むって 」
「 そんな聞いても本当におもしろくないって・・・ 」
「 いいって、どうせ何もする事ないんだし、聞かせてくれよ、なぁなぁ 」
葉月のしつこさに呆れたのか縞は葉月をチラッと見ると、溜息をついた
そして視線をまた窓に戻し、渋々語りだした。
「 さっき言ったように、お前がまだ5歳くらいの時に私の剣道の先生の家に行ったんだよ
もう先生もその時には年も90歳近くて、私が剣道を教わりに行かなくなってから
5年くらいだったかな・・・具合が悪くて寝たきりに近い状態になっていたらしい
丁度お前以外の家族は全員その時遠い地方の知り合いの結婚式に行っていて
お前と私の二人で留守番をしていたんだ。
小さいお前を一人残していくわけにもいかないし
仕方ないからお前も連れて見舞いに向かったんだ・・・ 」
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