の事情


-双子剣士編-


【7】






「 ふーん、そんな事があったんだ、もったいぶるからもうちょっとすごい事でもあったのかと思った・・・。 」




「 そんなどっかのドラマじゃあるまいし、早々変な事はおきないよ。 」





” 縞の存在が一番変だけどな。”




葉月は心の中だけでつっこみを入れておいた。





「 まぁ充分今の話も変な出来事だけどさ、俺全然覚えてないや。これっぽっちも思い出せない。 」




「 お前殆ど寝てたしな。あの頃は本当にかわいかった、天使みたいだったのに、

なんでこうなっちゃったかね。 」




縞は葉月を見つめて溜息を一つついた。




「 なんだよ、今だって充分可愛げあるだろう。

それよりもさ、縞の血がそんなにすごいなら色々活用できるんじゃない?

例えば、んーワクチンとか・・・。 」




「 言ったろ、あの時は酒とか漢方薬とか分量とか全てが偶然に重なってできた産物なんだ。

もう一度同じものなんて作れないし、本当に私の血でそうなったのかも疑問だろ、

なにより私みたいな血は毒にもなるんだって言うんだから、怖くて実験して作る気すらおきないよ。 」




「 そっかー、なんかもったいないなぁ。

でもさ、今の話って結構良かった話じゃん、なのにさっき暗くなってたんだ? 」





「 あぁそれは次の日の昼・・・・ 」




コンコン




縞が話そうとした途中で部屋の木の引き戸がノックされた。


その戸の向こうから「失礼します。」という女の声が聞こえる。




戸があくと、そこには着物姿の女の人が正座してお辞儀をしていた。






「 ようこそいらっしゃいました。この度は当料亭へお越しいただき大変うれしく存知ます。 」





「 やぁ久しぶり。 」




縞がそう少し笑って会釈すると着物姿の女の人も笑顔で会釈した。





「 縞さんまたいらしてくださったんですね、どうでございましたかお料理の方は。 」





「 相変わらず美味しかったよ。ここは和洋折衷で子供も食べれるものがあるし、

本当にいいお店だよ。 」





どうやら着物の女の人はここの女将さんらしく、目があったので葉月も女将さんに挨拶をした。





「 美味しかったです、ごちそうさま。 」





「 あらっ、もしかしてこの方は・・・。」




女将さんは葉月を見るとすぐに縞の方へ視線を向けた。






「 そう、葉月だよ。 」




「 まぁ!葉月さん!大きくなられましたわね!覚えてますかしら私のこと。 」





突然女将さんが自分の手前に座ってきたので葉月はしどろもどろで女将さんの顔を見た。


年は20代くらいで、何度見ても心当たりがない。





「 駄目駄目、こいつ全然覚えてないよ。 」



縞がそういって女将さんに言うと、女将さんは少し残念そうに笑った。




「 仕方ないですわねぇ。あの頃まだ葉月さん小さかったですものね。 」




葉月がまだ困惑していると、引き戸がまたコンコンと音をたてた。




「 失礼します。 」




「 え!?お、おなじ顔・・・!? 」




女将さんと同じ顔をした袴姿の女の人がそこに立っていた。




「 あら姉さん、道場の方は? 」




「 縞さんが来てるって聞いて今日はもう終わりにしてきたよ。 」




「 え?え?双子って・・・もしかしてさっき話してた・・・ 」





「 祥鳳と瑞鳳だよ、あの後瑞鳳は家を改築して料亭を、

祥鳳は道場をついで剣道の指導をしているんだ。」





「 時々私も道場へ指導にいきますのよ? 」




「 二人共すごい腕の持ち主だからね。双子剣士とかいってここらじゃ結構有名だったんだぞ。」





「 縞さんは相変わらず褒めるのがうまいですね。 」




クスクス笑う瑞鳳と祥鳳を前にして葉月はあっけにとられていた、


まさかさっきまで聞いてた話の人物が今登場するなんて、


なんてタイミングがよすぎるのだろうかと。





「 そうですか、葉月君は何も覚えてないんですか、仕方ないですね。

小さかったんですし。 」



瑞鳳から葉月の事を聞いた祥鳳はそう言うと、瑞鳳の横に座った。





「 あ・・・あの、さっきの話が本当なら・・・二人とも・・・えっとその 」




「 おや、言われたんですか縞さん。 」




「 こいつが何も覚えてないし、話を聞きたい聞きたいってせがむからさ、

あの時の事全部きかせてやったんだよ。その方が二人にとっても気が楽だろ。 」





「 えぇそうですとも、さすが縞さん。

そうですよ葉月君、私達は人間じゃありません。」





「 縞以外に、縞と同じような・・・えぇと・・・。 」




「 私達みたいな者は自分達の分類を ”スミト” と言ってきました。

杜で密かに棲むという意味で棲密杜。

でも簡単に妖怪とかもののけでいいですよ。 」




言葉をどもらせている葉月を見て、笑顔で祥鳳はそう答えた。





「 ・・・うーん、でもさ、妖怪とかってなんかこうオバケみたいで、嫌なんだよ。

生きてるのにさ・・・だから棲密杜って言うよ。いい・・・? 」





「 ふふふっ相変わらず葉月さんはいい子でございますわね。

勿論私達もそう呼んで頂けるのは、とても嬉しいですわ。 」





祥鳳と瑞鳳は本当に嬉しいといった感じでにっこりと微笑み、


それに少し葉月は照れながら愛想笑いを返した。




ガラッ




「 うひょ!久しぶりじゃの縞よ! 」




「 うわ!だ、誰!? 」



突然の侵入者にその場にいた者全員がビクッと身震いをした。




「 父上!もうっいきなりあけないでください! 」




「 え・・・父上・・・?ってことはさっき聞いた縞の先生!? 」




「 おぉーおぬしはもしや葉月ではないか?わしは成城じゃ、覚えておらんかの?

大きくなったのーはっはっは 」



成城と名乗った老人は隙間だらけの歯を見せ、”?”マークで一杯になった葉月の頭を軽く叩いた。




「 え・・・え・・・俺が5歳くらいのときに90歳近かったってことは、

アレから11年で今100歳くらい!?なんでこんなに元気なの!? 」




葉月が驚くのも無理はなかった。


100歳くらいなはずなのに、成城老人の背筋はまっすぐで、足腰もしっかりしている。


髪の毛も白髪だがハゲてはいないし、顔の血色もいい、肉付きも太っているわけではないがいい方だ、


とても昔癌を患っていた様には見えない。




「 もう元気で困り果ててますの、あれから元気になって、

ご飯も沢山たべるようになってどんどん健康に・・・、

この前の検査では血管年齢、脳年齢、骨年齢もろもろが全て

40代でしたのよ・・・お医者様もびっくりしてましたわ。 」





「 よ、40・・・! 」





「 はっはっは!癌が消えたのも今日まで元気なのも日々の鍛錬の賜物よ!

わしはまだまだ死ぬ気がせんぞ! 」





葉月が”あれ?”といった顔をしていると、縞が耳元でコソッとささやいた。




「 先生にはな・・・言ってないんだよあの事・・・。 」



「 ぇ・・・?なんで? 」



「 先生みたいな性格だと色々悩みそうだからな・・・。 」




” とてもそんな繊細な性格にはみえないんだけど・・・ ”




葉月は騒ぎで目を覚まし始めた信二達の頭を笑いながら撫で回している、


元気な着物をきた成城老人を哀愁に満ちた目で見つめた。






「 さて、そろそろ行くか・・・。 」





「 あら縞様、もうお帰りなんですか?今日はアレ食べていかれませんの? 」






「 い、いや、いいよ・・・もうお腹一杯だ・・・。そうだ、葉月なら食べると思うよ! 」






「 何?アレって何? 」





「 あらあら、葉月さんも一度お食べになっているんですけどやっぱりお忘れになってるんですわねぇ。

ちょっと待っててくださいね、丁度できてると思いますんで。

縞さんもよければお召し上がりになってくださいね。 」




と、瑞鳳は言うと部屋をイソイソと出て行った。




「 なぁ、アレってなんなんだよ? 」





「 まぁまぁ来てからのお楽しみですよ葉月君。

きっと食べれば思い出しますよとっても美味しいんですから、ね縞さん。 」





「 あ・・・あぁ・・・あー!わ、私ってば海の更衣室に忘れ物してきたなー!

いやーうっかりしてたうっかりしてた!ちょっととりにいってくるからここで待っててくれるかな。

葉月はゆっくりご馳走になっておけばいいから。

よし、信二達も一緒についておいで! 」




「 え・・・僕らも・・・? 」



「 なんで・・・??? 」




「 来いといったら来い。 」




「 はいっ 」



信二、ヤス、真美ちゃん、年雄は縞の気迫に押されて一緒に部屋を出て行った。






「 おぉっとわしも金魚に餌をやるのを忘れておった! 」




ついでに、成城老人も部屋からいなくなった。






「 な・・・なんだあいつ・・・なんであんなに慌てて、じいさんまで・・・。 」





「 お待たせしました〜!あら縞さんは?あらあら忘れ物を・・・残念ですわね、

それじゃ葉月さん、これでも食べてお待ちになってくださいね。思い出してくださるかしら〜。」





戻ってきた瑞鳳は、大きめの両手鍋と、小さなお碗を机の上に置いた。


葉月はとりあえず目の前に出されたお碗の蓋を開けた。



「 !!! 」




蓋をあけたとたんに部屋中に広がる、嗅覚と脳神経を麻痺させるくらいに


血のような肉のようなダイナミックでワイルドでグロテスクなその形、色、そしてデンジャーな香りに葉月は





” なにこれーーーー!!! ”





と、声にならない悲鳴を上げた。





「 いい香りでしょう? 」





「 こ・・・これ一体なんすか・・・ 」





「 これはですね、昔近所の山でみつけたキノコなんですよ。 」




「 きっきのこ!?これが!? 」




「 最初試しに食べてみたらとてもまったりとした口当たりで・・・、

あの時の感動はわすれられませんわ・・・。それからうちでもこれを食べるようになったんですのよ。 」





「 どうにかしてこれもメニューに加えたいんですが、形と色がやっぱり難点で・・・。

折角美味しいのに、残念ですよ。 」





” 形と色だけじゃないだろ、どう考えても ”




「 こ・・・これって俺昔食べたの・・・? 」





「 えぇ、泊まられた次の日の昼食にお出ししましたわ。

それにしても縞さんこの前も時間がなくてこれを食べそびれてしまって、本当に運が悪いですわねぇ。 」




その時、葉月の中で何かが繋がった。




さっき話した時に、縞が言ってた”あんな事”

自分が昔、見舞いに行く時に言ったらしき”臭い”という言葉。





” そ、そうか!幼い俺はこの匂いを予感してそんな事を・・・!

くそ!縞めこれが食べたくないからって逃げたな!! ”




葉月はそう悔しく思いながら箸を持ち、鼻の息を止めながらキノコの煮付けらしきそれをつまんで口に入れた。




ドサッ






「 葉月君!?どうしたんだい!?・・・おやおや寝ちゃってるよ 」




「 あらあら葉月さんたら、食べながら寝ちゃうだなんて、昔から同じですわねぇ。 」





強烈な匂いの元をかみ締めた途端に口から鼻にかけ、


先ほどまで嗅いでいた匂いの数倍の匂いが、充満し、葉月はショックで気絶してしまったのだった。






←前 次→
送ってくれると嬉しいです→