◆鬼の事情◆
-怪事件編-
【7】
”―そうなんです、朝おきたら窓ガラスが割れてて・・・
はい、朝にうちの娘が発見しまして・・・それは酷い割れ方でした
音ですか?生憎私は不眠症で睡眠薬をのんでいまして
主人は酔って寝ておりましたし。娘はそんな音きいていないって・・・
本当気持ち悪いったらないですよ・・・”
葉月はそうか・・・”娘”というのはこの梨子という女の子の事かと朝のニュースを振り返った
たしかに、この子が窓を割ったなら色々つじつまはあう
しかしなぜ我が家の窓を割る必要があるんだろうか
そして、それを何故 縞が知っているのだろうか、葉月にはわからない事ばかりだった
「 何いってるんですか、私がなんで自分の家の窓割らないといけないんですか 」
二つに分けた黒い髪の毛は走っているうちに乱れて、汗で少し額にはりついている梨子は冷静に縞を見ながらまだ少し荒い呼吸のまま返答した
しかしその瞳は縞の静かな瞳とは違った感じでそこにあった
、
「 いいや、あんたが割った。そしてその後起きた切り付け事件もあんたの仕業だ 」
「 訳がわかりません、一度ここの病院へ行かれたらどうですか? 」
梨子は口の端をすこし上げながら冷たく笑い、自分の頭を人差し指でつついた
「 ・・・っ 」
葉月の胸の奥から怒りがこみあげてきた
確かに、今の縞は何を言おうとしてるのか聞こうとしてるのかわからない
でも葉月は縞がそうするからには何か根拠があってからだろうと思った。
突然知らない人間に言いがかりをつけて頭がおかしいといわれても仕方がないのかもしれない
それでも葉月は女の子がとった行動に激しく腹が立った
ずっと母代わりのようにに育ててくれた縞がそんな言い方をされたのが嫌なのか、葉月自身にもよくわからない気持ちだった
梨子に詰め寄ろうとした葉月を縞は静かに制し
表情を変えずに言葉を続けた
「 あんた学校では成績優秀で運動も抜群の優秀な生徒、そして人当たりもよく
進んで嫌な仕事も引き受ける、先生受けも生徒受けも良い。
母親は料理教室の先生で、父親はIT関係の実業家
これでもかってくらいの何不自由のない、そして悪い噂がない
でも、そんなのはタテマエ、どんなに隠したって人には必ず本音っていうもんがある
あんたにだって本音くらいあるだろ 」
「 ・・・・・・ 」
梨子は縞の問に対して完全に無視を決め込んでいる
イライラする感情を抑えるのに葉月は必死だった
” くそ!なんか俺だけ全然話を把握できてない!! ”
と心の中で文句を言った
そんな葉月をよそに縞は淡々と話しを進める。
「 言えないなら私が代わりに言う 」
縞は梨子顔を片手で鷲づかみにし、他所を向いていた顔を無理やり自分の方へ向けさせた
縞と目を合わせられた梨子は抵抗するのも忘れ、その目に吸い込まれるように体を硬直させた
「 優秀な自分を演じていたんだろあんたは、先生の目を気にし、友達やクラスの人間
そして町中の人間の自分への印象を良くしようと必死だった、
山口はえらいな
梨子はすごいね
梨子ちゃんはいい子ね
こう言われるのに必死だったんだろ、でもそんなに自分を装っていれば、
周りへの不平不満は溜まる一方
それでもあんたはタテマエの自分を創るために我慢してきた
家に帰ればヒステリックで神経質な母親と
接待だと言って酔って帰ってきては女の香水の臭いをさせる父親
毎日のようにくりひろげられる夫婦喧嘩
それでも笑顔で両親をなだめていた、本音を隠しながら。そんな家庭はどこにだってある
でもあんたはそんな日々を過ごしているうちに、我慢が 」
「 うるさい!うるさいうるさいうるさい!うるさいな! 」
女の子は縞をつきとばすと突然髪の毛をかきむしり始めた
噴出しをつけるとしたら ”キイイイィ” という感じだろう
二つに束ねていた髪の毛は完全に乱れてただ下ろしただけの髪型になっている
「 えぇそうよ、こっちが我慢して気遣ってやってるっていうのにどいつもこいつも
いつも自分の事ばっか考えてこっちのことはお構いなし!
そのくせ困ったらこっちに頼ってきて、先生は嫌な事は全部私におしつけて
二言目にあんたは優秀だから、えらいから、真面目だから
ママはあそこの家の子みたいになっちゃ駄目よあなたは賢いんだから
あなたはそんな事しちゃ駄目なのあなたはできる子なんだから
結局自分のいいように子供を作りあげたいだけ
パパは浮気してるくせに、でかい態度で、最近の成績はどうだ
勉強はしなくていいのか、まだ起きているのか。パソコンばっかりするな
私はそんな事聞いてほしいんじゃない、そんな事言ってほしいんじゃない
誰も私の事なんてこれっぽちも考えちゃいない
あの窓だってクソ親父が窓くらいふけっていったからその窓ごと失くしてやったわ!
あのチャラチャラした女はお婆さんの荷物を持っている私の事を見て”いい子ちゃんぶってきもい子”
なんて言うから脅かしてやったのよ!きゃーきゃー逃げ回っていい気味よ! 」
すごい気迫だった、よほど溜まっていたのか言葉に押されているみたいな感じだと縞も葉月もそう感じた。
女の子の目には、自分の事を考えない世間への不満と悲しみが満ち溢れているのかもしれない
誰にでもよくあることだ、自分を偽って人に良い風にみてもらいたい
この子だってそう、純粋に褒められたい、そんな気持ちから始まったのかもしれない
「 あんたの言う事わからないでもないよ、俺だって褒められたいし良い様に見られたいよ
でもさ、折角そうやってがんばってきたのに壊したら意味ないじゃん
我慢できなかったんならそう言えばよかったんじゃない? 」
「 あんたみないな馬鹿に何も言われたくない 」
バシッ!
何かが叩かれる音が響き渡った、女の子は左頬をおさえて大きい目からは動揺が隠せない
どうやら縞が平手をくらわしたらしい
縞の平手打ちはすごく痛い、葉月なんて一度口の中を切って血が出て
とれそうだった乳歯がとれたくらいだ
でもそんな度々叩くわけではなく、本当に縞が怒った時だけ平手がとんでくるという事を葉月は知っていた
だから縞もそこそこ頭にきてるということだろう
「 いい加減にしろ。自分が悲劇のヒロインにでもなったつもりか、言ったろそんな人間世の中に一杯いるって
お前が馬鹿というこいつとあんた、どっちがえらいかなんてどうでもいいけどな
あんたが勝手にいい子ちゃんぶって我慢できなくなっただけじゃないか
それを誰も自分の気持ちわかってくれないだとかほざきやがって
結局あんたは自分の事しか考えてないんだろ、だから人が自分の事考えてなかったり
自分がおざなりにされたりすると腹が立つんだ。純粋に人の事を思ってないから
それで窓ガラスわって、確信をつく言葉を口にした女を切りつけて
結局自分を”良い子”という皮で隠そうとしていただけなんだろうが 」
「 なによ!私だけが悪いの!? 」
女の子は縞にそう言い放つとフェンスをよじのぼって向こう側へ行こうとしだした
「 そんなに私が悪いなら死んでやるわ!えぇそれでいいんでしょ! 」
葉月が慌てて女の子にしがみつきひきずり下ろすと、女の子は突然泣き出した
「 しかたないじゃない・・・私だって人間だもん・・・っ 」
梨子はポロポロと大粒の涙をコンクリートの地面に落としている
「 踏み切りの次は屋上か 」
縞は背をかがめて座り込んでいる梨子視線にあわせた
「 さっき踏み切りみながら”あぁ死んじゃおかな”って思ったろ
しんどくなったら死ぬのか?そんな軽いもんか、お前の命って
なんの為にそんなに頑張ってきたんだよ。それじゃ本当に意味がないだろ
お前が死んで悲しむ奴がいないとでも思ってるのか? 」
縞は女の子を立たせると階段へのドアから連れてでていってしまった
慌てて葉月が猫の籠をもって後をおいかけると、驚くべき光景が目にとびこんできた
「 ししししま!なんてことしてるんだよー! 」
なんと縞は女の子の頭を踊り場の塀から外におしだそうとしている
ここは8階の踊り場、落ちたらさすがに怪我じゃすまない
「 やめろよ!それはさすがにやり過ぎ いっ! 」
縞を止めようとした葉月の足に痛みが走った
目をやると籠にはいってたはずの猫が葉月の足を噛んでいるではないか
猫は足から口をはなすと座りなおして溜息をついた
実際についたかどうかはわからないけど、なんとなくそんな感じに見えた
「 頭だせ、落としゃしないよ。ほら、あそこ 」
縞は女の子の頭を窓におしだして、呟いた
女の子は下をじっと見つめて、あっと声をもらした
葉月も少しのりだして下を見る
すると、下で縦横共に大柄の、つまり相撲取りスタイルの
学ランをきた男が重たそうにあちこち走りまわっている、何か探しているみたいだ
「 ダイちゃん・・・大ちゃんがなんでここに 」
女の子は下で動き回っている相撲君とどうやら知り合いみたいだ
ダイちゃんと呼ばれている男を見つめている目はとても優しい感じだ
きっと結構仲良しなんだろう
「 友達? 」
葉月が聞くと女の子は頷いた
「 あの子、きっとあんたを探しているんだろうな、あの時踏み切りの前にいたし 」
「 大ちゃんいたなんて気づかなかった・・・ 」
「 なんで、あんたが起こしたガラス割りの件と
切り付けの件が怪事件として取り上げられたかわかるか 」
「 え??? 」
「 そもそも、今回の事件はガラスと切り付けと、
木が大量に倒されてた事が重なり合ってマスコミにでもおもしろおかしく取り上げられたんだ
これがガラスと切り付けだけなら別に取り立てて普通の事件としてでしか取り上げられなかっただろう
そこに ”木が大量に台風でも無いのに倒れていた”
この不思議な現象が自然にガラスが割れた、よくわからないモノにきりつけられた
という感じに、不思議な出来事に変えてしまったんだ
そして木が倒れていたという事が隠れ蓑になり、あんたがやったって事がばれなかった
あんなの女の子にはどうやったって無理だからね
全部やった人間が同じと警察も睨んでいるだろうし、
それに別に死人が出たわけじゃないから、そんなに本腰もいれてないだろう 」
「 それじゃ木も、あんたが・・・? 」
女の子は首を一杯横にふって違うと答えた
「 私じゃない、私その時塾にいたもの 」
「 あんたには無理でも、でかい体格なら木を押し倒すくらいは頑張れば難しいことじゃないだろうね
そんなに極端に太い木じゃない限り 」
「 え・・・まさか 」
「 まぁ、続きはあの子が来てからにしよう 」
縞は下に向かっておーいと大声をあげて、相撲君に手をふってみせた
相撲君は女の子を見るとマンションの入り口へ重たく吸い込まれていった
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