◆角隠し◆
-tunokakusi-


-幸せ-



木々の吐息が聞こえる


毎日 毎日


春 夏 秋 冬

変らず木々達はこの山の空気を吸って吐いている


毎日同じ事を繰り返している木々にもいつかは終わりがくる


それは生きている者達 全てに言えること



終わりがあるからこそ始まりがあり

始まりがあるからこそ終わりがある

空を自由に飛んでいる鳥にも

草にしがみついている虫にも

その草を食べているウサギにも

そのウサギを食べる動物にも

いつかは終わりがくる



それが命であり、生きているということ


それじゃ私は


私は いつ終わるんだろう



まぁ、そんなことはどうでもいい


考えても仕方がない












「 しま、いつまで寝てるんだ 」



「 ・・・寝てないよ、おきてるよ、横になってただけだよ 」


「 もう大人なんだからいつまでも布団に入ってちゃ駄目だろ 」

笑いながら大きな背中を見せるのは父



「 しまは、本当に布団で寝るのが好きなんだから 」

頭に手ぬぐいを巻いてカゴ一杯に野菜を運んできたのは母



「 おねぇは年中冬眠なんだよ、目ん玉くさるー目ん玉くさるー 」

そういって目を指で大きく開いているのは弟


「 ・・・ころすぞ 」


「 うへぇーおねぇは鬼だ 鬼婆こわいこわいー」



「 ほら、行くぞ。それとも今日はずっと布団で過ごすのか? 」


あぁ・・・そうか今日は、キノコを採りに行くんだった



私の家は野菜とキノコを米や粟に変えて暮らしている


魚は極たまに弟がとってくる


「 お前もう少し女らしくしないと、嫁の貰い手ないぞ 」


「 ものすごく女らしいよ、そりゃもうものすごく 」


お父が、どこがだよと大きな声で笑いながら背中をたたく


別に嫁にも行きたくない、面倒くさいし



大きなカゴを背中に下げて、山にお父と入る



昨日雨が降ったせいで地面は柔らかくなっていたけど


空気がすんですがすがしい



「 昨日雨ふったからな、今日はきっと一杯とれるぞ 」

大きな背中が嬉しそうに言う



「 ふぁーあ 」

やっぱりまだ眠たい



「 ぼーっとしてると、また迷うぞ。この前はたまたま

お父がうまいこと見つけれたからよかったが、今度は見つけれるかわからんぞ

なんせお前は道に弱いんだから 」



そう、私は道に弱い、すぐどこか知らないところへいってしまう



この前も本当にもう駄目かと思った。



だから今日はしっかりついていかなくちゃ





「 よしこの辺りで止まっておこう、あまり行くと危ないしな 」



「 それじゃ私ここのを採る、お父は何処のを採る? 」



「 お父はお前をちゃんと見張れるように下のほうで採るよ 」


そういいながら私の頭をぐしゃぐしゃにする








「 むあー重いいいいい 」


もうカゴの中は一杯だ、私にはこれ以上担げそうにない


「 ふっふーこれなら当分キノコには困らんぞ 」


お父に声をかけてみる


「 おーーーーーーーーい おとうーーーこっちにはもう入らんよーー 」


・・・・・・



聞こえてないらしい



もう!これだから年寄りは


鼻息をあらくしながら下の方を覗いてみる



「 ・・・あ・・・れ・・・? 」



いない、違う所にいったのかな


「 おとうー!おとうーー!どこーー!! 」

何度か叫んでみたが、返事をするのは木々の葉のこすれる音


「 おおおおおちつけ、おちついて、こういうときは待ってる動かない 」


お父に言われた、はぐれたらその場を動くなって


大丈夫、いなくなったのはお父の方なんだし

私がこの場を動かない限り見つけてもらえるはず


日が暮れて

夜がきて

星が出て

日が昇って

日が暮れて


来ない


だれもこない


泣きそうだ


でも、泣かない


泣いたって、仕方ない

これだけ来ないってことはもしかしたらお父が何処かで怪我しているのかも


そんなに深くには入っていない、大丈夫 行ける


お父の居たほうへ下がっていく

そこにはキノコがはいったカゴだけが転がっていた


無造作に捨てられているように転がっているかごが

急いでその場を後にしたことを物語っている


「 何処!?何処いったのおとうーーー!! 」











あれからどれだけ時間がたっただろう

とりあえず山だけでも出ようと思ったけど出れないでいる。

確かに私は道に弱い


でもこれだけ出れないのは少しおかしいと思う

狸かキツネにでも化かされている?


・・・


いや・・・やっぱり私が道に弱いだけか・・・


狸と狐のせいにしては狸と狐に怒られるな・・・


あれから何度か夜が明けたけど、お父は見つからない

崖の下も一応探したけど、お父はいなかった



やっぱり山を下りてしまってるのか

それなら何故私を探しに来てくれないのか

もしかして私を探してるけど、見つからないだけなのか


毎日毎日考えて考えて時間が過ぎる


今日も星が浮かび上がる

幸い山菜やキノコや水には不自由していない


明日、きっと明日には帰れる


そう・・・明日が駄目なら明後日、明後日が駄目なら明々後日


明々後日が駄目ならその次の日・・・


きっと・・・いつか・・・



そう願いながら夢に落ちていく




そんな夜を何度経験しただろう


ある日いつも通り山を歩いていると、足をすべらせてずり落ちた


尻餅をついて視線を前にやると家らしきものが小さくみえた


私は無我夢中で走った


帰れる!これでやっと!


走りきって、家の前に着いた


あがる息と喜びを抑えて戸を横に引く

重たい木の戸が砂といりまじって大きな音をたてる



「 はぁ・・・はぁ・・・ 」


目に飛び込んで来たのは

散乱したゴミくずと

見覚えのある食器の割れている姿と



どす黒く広がっているシミと生臭い匂い


そのシミに歩み寄ってジッと見つめる


髪の毛も沢山落ちている



「 おかあ・・・おとう・・・しん・・・ 」



髪の毛を拾えるだけ拾い集めた



何があったのかわかりたくない


でも私もそこそこ大人に近づいている自分には


おおよその見当というものが嫌でもついてしまう


大きな爪の後とほのかに残っている獣臭さが

我が家に何が起こったのか、物語っていた


村中かけまわってみたが、どこも同じ状況だった


我が家に戻り、いつも自分が寝ていた場所に横になる



お父はきっと、あの日キノコをとってる途中で熊が村へ近づくのを見つけたんだろう


もしくは村から聞こえる悲鳴が聞こえた


お父は言ってた、熊が山を下りる時は獲物を蓄える時だって


今は季節で言えば冬に近い秋、もうすぐ冬眠の季節


慌てて村に戻って、知らせようとしたけど


時既に遅しで熊は村を襲撃


あえなく村人は全滅



農具くらいしかない村人にはきっと成す術もなかったんだろう


全て自分の中での憶測でしかないが


ある程度は、正解なんだと思う


死体が無いのは、大きな木車の車輪の後が各家の前に停まり


去っていった後が残っていたから


きっとお上の人間が持っていったんだろう


悲しいくらいに、憶測が通ってしまう




”しま、いつまで寝てるんだ”



「 ・・・寝てない、おきてるよ、横になってただけ・・・ 」



”もう大人なんだからいつまでも布団に入ってちゃ駄目だろ”


「 だって・・・布団すきだから・・・ 」



”しまは、本当に布団で寝るのが好きなんだから”


「 ・・・うん だいすき 」


”おねぇは年中冬眠なんだよ、目ん玉くさるー目ん玉くさるー”


「・・・・・・っ 」



握り締めた手の中で乾いた音をたてる家族



溜めていた涙がとめどなく目から溢れ出てくる


それは悲しみからか憎しみからか寂しさからか。



手の中の家族は、何も語りかけてはくれない


自分だけが生き残ってしまった


自分だけが


なんで 私だけ



幸せだった家に悲しみが溢れるように注がれていった




→◆緑の家◆

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