◆角隠し◆
-tunokakusi-



-緑の家-





あれからどれくらい時間がたっただろう


ぼーっとしながら眠くなったら寝て


ちょっと起きてまた寝てを繰り返しているから時間の感覚がわからない



部屋はずっと暗いままだ


雨戸をあければいいんだけど


別に太陽がみたいわけでもないし


光が差し込んだらこの家の中がよく見えてしまうだけだし



それよりも眠りたい・・・





眠ったら、今この現実を目に映さないで済む


「 だって・・・布団すきだから・・・ 」



誰に語りかけるでもなく、そうつぶやく


返事は勿論かえってこない


いつかこれが全部夢で、目が覚めた時


きっとお父が呆れて

お母がご飯作ってて

弟が私の悪口いって


そんな事を思いながら現実と夢の間に落ちていく



「 ガタッ ガガガガ... 」


!!


戸の開く音が何もない家に光を差し入れる



「 ・・・だれかそこにおるのか 」



「・・・・・・」



身なりからして何処かの神主さんのようだ


白いヒゲと深く刻み込まれたシワからいって年は90、といった所だろうか


もしかしたらもっといっているかもしれない


そういえば山の中に神社があったな・・・


でもそこの神主には何度か会った事があるから


この人はまた違う神社の神主さんなんだろう



顔をあげると、神主は後ずさりをしながらつぶやいた


「 変な感じがして来てみたら・・・ぬし・・・一体ここで何をしておる 」


「 ・・・寝てた・・・ 」


重たい体と重たい頭を起こして身なりを整える




(あれ?なんか髪の毛長くなったなぁ・・・)




山に入ってる間に大分伸びたらしい。どうりで頭が重たいわけだ・・・



神主が恐る恐るこちらに近寄ってきた



「 ぬしは、何ゆえここに居座っておるのじゃ 」



「 だって・・・ここ・・・私の家だから・・・ 」


そう・・・ここは私の家、ここ以外私は居場所がない




「 ここは、熊に襲われて村人全員食い殺された村じゃ

今は誰もおらぬこの村に何故ぬしのような者がおる 」



「 ・・・ 」


だから、家だっていってるのに・・・



少し腹が立って何もしゃべらずにいると神主が目の前にすわり、

まじまじと顔をみつめてきた


白いヒゲのような眉毛の下に隠れた濁った瞳が大きく見開く


「・・・・ぬし・・・名はなんだ・・・ 」


「 ・・・しま・・・ 」


「 やはり・・・まさかとはおもったが、そうかシマ生きておったのか・・・ 」



なんで私の事を知っているんだろうか



「 あぁ・・・わしはぬしも食い殺されたものと思っていた

そうか・・・生きておったのか・・・ 」



濁った目に水が溢れ出していく



「 え・・・と、お爺さんは私と知り合い? 」



「 わからんのも無理ないな、わしはぬしとよく遊んだ少月だ 」



「 ・・・・しょう・・・げつ・・・?嘘、だって少月は私より小さくて

年だって10にもなってないのに・・・ 」



「 ぬしの中では、あれから時がとまっておるのだな

あれから80年あまりの年月がたった

わしも初め見たとき、ぬしのことがわからんかった

ぬしは変らんな・・・風貌は少しばかり変ってしもうたが 」



は・・・ちじゅうねん・・・?



少月と言う爺さんは、小物袋から手鏡をとりだして


事態を把握できていない私に手渡した



「 ・・・・・え・・・え・・・わ・・たし・・・ 」


鏡の中に映った自分を見つめる瞳は、燃えるような真紅になっており

髪の毛は色素が抜けて白に近い灰色に


頭からは、鬼のような角が鏡におさまりきれずに生えていた


その姿はまさに夜叉



「 何がぬしを夜叉に変えたかはわしにはわからん

だがいつまでもここにはおれぬ

わしの所へきなさい、暖かい湯につかり着物を着替えよう

これからの事を考えるのはそれからだ 」




少月に頭から大きな風呂敷をかぶせられ、久しぶりの空の下に出た


太陽の光が目に差し込む

心地よい痛さ


・・・あぁ・・・きもちいい・・・



「 この村はな、もうすぐ潰され、平地になる。そしてまた別の村ができるだろう

わしもここにはよく遊びにきた、途端に恋しくなってな、

最後にこの村に別れを告げようと思って今日来た

すると変な気配がして、入ってみればぬしが居た・・・というわけだ

あんなに悲惨な現状も今は緑が生い茂り、草花が命をはぐくんでおる

誠に、自然とは優しく、残酷な物だ・・・ 」




少月はそういうと、村に向かって手をあわせ目をつむった


私は、ツタと草花が覆い茂った我が家を静かに見つめていた


昨夜雨がふったのか、しずくが緑の葉の上で光り、とても綺麗だ



80年、その月日が我が家の色を緑に変えてしまった

村にあった井戸や建物も殆ど面影を残していない




「 あぁ・・・でも・・・ 」




この澄んだ空気は あの時から変らない






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060511

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