◆角隠し◆
-tunokakusi-



-喜び-





あれから数ヶ月が経った


あのあと私は少月の家で世話になっている


少月にはすでに孫までいて、家族全員に私の身の上を少月は説明した


皆、それを承知でこの家においてくれている




自分でもどうやってるのかはわからないが


人の姿になろうと思えばなれたので、外にでるのも特に支障はなかった




私はやっぱりもう、人じゃないらしい






「 シマは〜おじいちゃんより年寄りってほんとー? 」


そう私の着物の裾にしがみついてきたのは少月の孫の雄月だ



「 本当だよ、だから私は雄月よりもずーっとずーーーっとお姉ちゃんなんだよ 」



「 ゆうげつよりもずっとずっと年寄り〜? 」


雄月は今何を知っても楽しい時期らしく、何かにつけてキャッキャと無邪気に笑う



「 でもこの事は他の家の人には秘密だよ、私と雄月のお父さんお母さんと

おじいちゃんだけの秘密 」



人差し指で雄月の鼻の頭をつつくと、雄月は手で口を押さえながら笑う



すると向こうの廊下から長身で痩せ型の髪の毛を一つに束ねた

男がこちらにやってきた



「 おやおやこんな所にいましたか。雄月、そろそろ出かける時間ですよ 」



「 ほらお父さんが呼んでるよ、いっといで 」


えーやだーと膨れながら雄月は後ろに隠れた



「 ん〜?雄月はどこいったのでしょうかぁ? 」


雄月の父親が歌舞伎の役者のように大げさな動作で辺りを見回す



「 折角、帰りに甘物屋に寄って水菓子でも買ってかえってやろうと思ったのに

いないんじゃし方が無いですねぇ 」



お菓子と聞いて雄月が後ろから飛び出してきた



「 水菓子!?水菓子かうの!?かうの? 」


よほどうれしいのか小さい体はピョンピョン、兎のように飛び跳ねる



「 しまさんは何がいいですか?やっぱりアレですか? 」

雄月の父親はそういいながら串から団子を食べる仕草をする



「 勿論ソレで 」



「 しまさんは本当にミタラシがお好きですね 」


クックックと雄月ににた顔で笑う



「 いつもすいません、孔月さん 」



「 しまもーいこうよ〜一緒に〜 」


「 そうですよ、シマさんも是非一緒にどうですか? 」



「 ありがとうございます、でも私は山に入って山菜をとろうとおもっていたので

また次の機会にします。雄月ごめんな 」


「 そうですか・・・それは残念ですがシマさんの採られる山菜は絶品ですからね

楽しみにしていますよ 」


「 それじゃぁそれ終わってからでも行こうよ〜 」


雄月の父親、孔月は納得したが、雄月はまだ納得できないようだ



「 採りおわったら余った分を売りにいかないと駄目なんだ、

だから今日は一緒に行けそうにないよ、ごめんな 」



「 む〜〜それじゃ仕方ないねぇ・・・ 」


雄月は口をしぼませてうなだれる



「 今度一緒に町にでて玩具買いにいこう、それで勘弁してくれ 」



雄月の頭をなでながらそういうと雄月は約束だよ!といいながら父親と家を後にした






「 それじゃ、行ってきます 」



「 いってらっしゃいませ、気をつけてくださいね?

あまり遠くまでいかれると危ないですから 」



「 えぇ、あまり遠くまでいくと、私は道に弱いからそれこそ帰ってこれなくなります

でも今日はいい山菜が沢山採れそうですよ 」



「 ここの所毎日のように行かれてるではありませんか、

ゆっくりなされたらいいのに、そんなに気を使わなくてもよろしいんですよ?

私共は本当にシマさんの事家族だと思っているのですから 」


そうやって上品な口元に薄く紅を引いて、白く細い手で

私の頬にそっと優しくふれてくれているのは雄月の母親



「 有難う御座います。本当に少月にも皆さんにも感謝しています、いいえ

感謝しても感謝しきれません、私みたいな輩はそれこそ殺されても文句が言えないのに

それを生かしておくだけじゃなく、家にまで置いて

これほど優しく接していただけるなんて本当に、どう言葉に表したらいいやら・・・

だから、これは私の少しばかりの感謝の気持ちなんです

だからどうか気にしないでください祥子さん。 」



「 そんな・・・もう、本当に気にしないで下さいって言ってるのに

仕方ありませんね、そこまでおっしゃるのでしたらお言葉に甘えてしまいましょうか 」


雄月の母親、祥子は少し困りながら優しく微笑む



「 それでは、夕刻にはもどります。早く終われば少し下の方にも寄ってきますね 」


はいわかりました、いってらっしゃいと笑顔で送る祥子に背を向け、山に向かった






「 ふぅ、今日はこのくらいにしとくか 」


山菜やキノコ類を籠に満たしたのを確認し、根元に座り、竹筒にいれた水を飲む


別に飲まず食わずでも生きていけるが、やはり食生活はやめるとなんだかしっくりこない


今日この山菜はどれくらいで売れるかな、まぁ行ってみてからのお楽しみか


それよりもさっきから気になっているのは



「 そこに居る奴、私に何か用か? 」



ガサッササッ



木陰から若い青年が頭に手ぬぐいをまき、籠を背中に背負って照れくさそうに出てきた



「 お前、ここ最近ちょくちょく私の事を近くに来て見ていただろう、

何か用があるならはっきり面と向かって言え 」



厳しい口調に驚いたのか、青年はあたふたしだした



「 すすすすすいません!いつか声をかけようかけようと思って

頃合を見計らっていやんですが、どうしても声がかけれなくって・・・

嫌な気持ちをさせてしまったなら、申し訳ないです 」


青年はそういうと、深く頭をさげた


と同時に、背中に入っていた籠の中身が転がり出てきた。

青年は慌ててそれを拾おうとして、身を乗り出したら

頭を木にぶつけて、悶絶してしまった。



「 プッ 」


あまりの滑稽な姿に、ついふきだしてしまった



「 へ・・・へへへ、すいません 」


青年は実にばつが悪そうに笑う



「 いや、こっちこそ初対面なのに、失礼だった、すまない 」



「 い、いえいえ!俺はちゃんと挨拶しないでつけまわしてたんですから!

失礼なのは本当にこっちの方です、すいません! 」



「 いや、危害を加える気がないのはわかっていたから、別に気にしてはいない

私は”しま” そっちの名前も聞いていいかな 」



青年は面食らったようで、最初は口をぱくぱくしていたが

やがて自分の名前を喉から押し出した



「 俺の名前は、きよいち・・・喜代一っていいます! 」



「 そうか、それじゃ喜代一、何故私の周りをうろうろしていたのか教えてくれるかな 」


木陰に腰をおろすと、まぁ座れよと、喜代一に促す

喜代一はうながされるまま、その場に腰をおろした



「 あの・・・俺の家うどん屋で、そこに出す山菜を採るのが俺の仕事なんです

だから毎日この山に入っていたんですが、ある日 えぇとシマさんを見かけて

俺この山で女の人に会うって言うのがはじめてだったんで、気になっちゃって・・・

それで、いつも声をかけようとおもって・・・ 」



喜代一はそういうと溜息をつきながら、俺ってやっぱり臆病者だなとうなだれた



「 なんで声をかけようと思ったんだ? 」



「 そ・・・それは・・・・ 」


喜代一はもじもじしながら答えた


「 仲良くなりたかったから・・・です 」



子犬みたいにうつむく姿にどうも笑いがこみあげてきてしまう




「 ふふ、わかったわかった、でも悪いね、こんなガサツな奴で 」



「 い、いや、そんなことないですよ!確かにちょっと驚きはしましたがね 」





それから毎日のように、喜代一は私の所にやってきた


あそこのキノコはこの時期にいくと沢山できてていいとか

あそこの山菜は、大きいものがおおくて良いとか、半ば一方的に喋っていた


正直最初は鬱陶しいと思っていたが最近はそうでもない



今日もいつものように喜代一が1人で話をする



「 そういえばシマさんがつけてる帯止め、結構古いものですね 」

喜代一は帯止めのほうへ指さした



「・・・あ、あぁこれか 」


帯止めについた小さな鈴がチリンと涼しい音を出す



「 これはうちの父親が昔、早く嫁にいけるように、と願をかけて作ってくれたものなんだ

器用だったからね、うちの父親は 」



帯から帯止めを外し、喜代一に渡す



喜代一は細工物が好きらしく、しばらくまじまじと帯止めを見つめていた




「 これはすごいですね、よくできています。是非作り方を直に教わりたいもんですよ

お父さんは今どちらに?一緒に住まれてるんですか? 」




「 いや、家族は全員死んでしまって、今は神社の神主一家に世話になってるよ 」




「 あ・・・そうだったんですか、すいません。なんか無粋な事を・・・ 」



喜代一は塩をかけられた菜のようにしお垂れる



「 いいよ、もうずっと昔の話だし。今は 幸せだよ 」



幸せ という言葉が少しぎこちなくなってしまった。

幸せじゃないといったら嘘になる、少月一家も優しくしてくれる

親も家もなくなった自分がこれ以上何を望むんだろうか


それでも、やっぱり・・・



「 ?しまさん?大丈夫ですか?なんかあったんですか? 」


気づくと喜代一が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

近くでみればみるほど、子犬みたいな顔にみえてしまう

眉毛がタレ気味だからだろうか?


首を横に振ると、喜代一はそれなら良かったと微笑んだ



「 それじゃ今シマさんは神社の神主の家にお住みになられてるんですよね

今度一度遊びにいってみても良いですか?

あ!嫌ならいいんです!ただシマさんの住んでる所ってどんな所なのかな・・・って

興味本位で思っただけですから、ほんときにしないでください! 」



ずうずうしい事を言ってしまったと思ったのか、喜代一は冷や汗をかいている

またその姿が滑稽で滑稽で


「 そんなに慌てなくていいよ。私は全然構わないよ、明日にでも案内するよ 」


「 え!いいんですか?やった! 」




次の日、喜代一を少月の神社。”月薫神社”に連れてきた


喜代一は境内にあるものみるものに、おーっおーっと感嘆をあげている



「 おや、シマ。そちらが昨日言っていた方かい 」


白い髭をつまみながら少月がひょっこり出てきた



「 そうだよ、こいつが昨日言った喜代一

喜代一、これは少月。この神社の神主で私が世話になっている人だよ 」


よろしくおねがいしますと喜代一は慌ててお辞儀をする


ふぉふぉふぉ礼儀正しい青年じゃなとつぶやくと、少月は二人を本殿の方へ案内した


喜代一は本殿に飾られている置物を見てここでも感嘆をあげている



「 色んな置物があるんですね!どれも高価なものばかりなようで

私はドジなもので、壊さないかとハラハラしますよ 」


少月と喜代一は意気投合し、話し込んでしまった。



「 あら、あれが噂の殿方? 」


後ろから現れたのは雄月と母親の祥子だ

祥子はなにやらニコニコしているが雄月は祥子の後ろに隠れたままだ


「 感じのいい方ではありませんか、優しそうだし。良かったですわ 」



「 でもすごいおっちょこちょいな奴なんですよ、山菜を採っている時も

勝手にしゃべっているし、本当に変な奴 」



「 でもシマさんあの方を見つめる目はすごく優しかったですわ 」


祥子はそういうとにっこりもう一度微笑んだ



「 そうですか?自分ではよくわからないです 」





喜代一は少月と話が終わったのかこっちに帰ってきた


「 すいませんシマさん。なんか話こんじゃって、あっこんにちわお邪魔しています。

喜代一と申します、よろしくおねがいします 」


祥子はこちらこそと言うと雄月もご挨拶なさいと促した


しかし雄月は一向にでてこようとしない



「 あらあら困った子ね、どうもすいません喜代一さん。それじゃ私どもはこの辺りで 」


祥子は一礼すると

それにお邪魔をしちゃ申し訳ありませんしねとシマの耳元でささやき

その場を後にした。





「 シマさん、今日は本当にありがとうございました! 」


喜代一は勢い良くお辞儀をする


「 見たかったらいつでもくればいいよ、皆もそういっていたし

いつでも歓迎らしいよ 」



「 そうですか!それじゃお言葉に甘えてまた今度伺わせていただきますね 」



そういうと喜代一は帰って行った





「 シマさん、嬉しそうですね祥子。 」



「 えぇ孔月さん。とても良い青年ですし、

少しでもシマさんがこれで元気になってくれれば良いんですけど 」


祥子と孔月がそんな会話を交わしている時に雄月1人は今だ母親の後ろに隠れたままだった



「 ゆづき・・・あのお兄ちゃん・・・嫌い・・・ 」



続...


060512
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