◆角隠し◆
-tunokakusi-


-角隠し-




喜代一は頻繁に月薫神社にくるようになった


その度、少月と喜代一は楽しそうに話し込み


雄月は、ご機嫌斜めだった。


喜代一が話しかけてみてもすぐ逃げてしまったり

頭をなでようとしたら蹴って暴れたり、散々だった。




「 雄月は、なんでそんなに喜代一を嫌がるんだ? 」


喜代一が帰ってから、雄月に詰め寄ると、雄月はうつむいて黙り込んでしまった



「 あいつがここに来るのが、嫌か? 」


雄月は下唇をかみしめてコクンと頷く


「 理由は聞いちゃ駄目かな? 」


小さい口を小さく開けて雄月は答えた



「 ・・・あのお兄ちゃん・・・いつも夢にでてくるの

シマもいるんだけど、シマ、すごく悲しそうなの、あのお兄ちゃんのせいで悲しそうなの

なんでかわかんないけど、なんで泣いてるのか、わかんないけど。

ゆうづき、あのお兄ちゃん嫌い、嫌いだよぉ・・・ 」


グスグス泣き出してしまったので慌てて抱き上げて、ごめんごめんと頭をなでたが

雄月はぐずったまま、その日は眠り込んでしまった。



「 シマさんすいません、雄月・・・いつまでも人見知りしてしまいまして 」


孔月は申し訳なさそうにお茶を汲む


「 いや、いいんですよ。何か夢を見るそうなんです。

あんなに嫌がってますし、当分は来ないように

喜代一にもいっておきますよ、あいつならわかってくれるでしょうし 」



孔月は雄月が見る夢の内容を聞くと、苦笑しながら話を続けた



「 そうですか、すいません・・・シマさん、きっと雄月はやきもちをやいてるんだと思います

喜代一さんをみてると、シマさんがとられてしまうような気持ちになるんでしょう

だからそんな夢をみるんでしょうね。

まだ幼いからきっとそれがどういう感情なのかわからず、

泣き出してしまったんだと思います 」



「 それなら、いいんですけど 」


どうぞとお茶を手渡され、二人してしぶい茶をすする

ズズズという音が二重にかさなり、部屋を暖かくする


だいぶ肌寒くなってきましたね、と軽く会話を交わした後

それぞれの寝室に戻った。


寝室に行く前に、雄月の寝顔を覗いていく

静かな寝息を立てて夢心地のようだ


自分の弟の面影を重ね、髪の毛を優しくなでる


雄月が寝ている部屋を後にすると、その日は床についた。






「 そうですか・・・雄月君、そんな夢を・・・かわいそうに

わかりました、当分はお邪魔しないようにします。 」


次の日、事情を話すと、喜代一は残念そうな表情を浮かべ

俺は大分あの子に嫌われちゃってるようですね、としょんぼりしてしまった。



「 すまない、どうも私と遊ぶ時間が減ってしまって寂しいみたいなんだ 」



「 すいません・・・俺がシマさんの周りをうろうろするばっかりに・・・

なんか迷惑をかけてしまったみたいで 」



「 いやいや、私もなんだかんだで喜代一に会うのが楽しみになってるよ

一緒にいると、なんだかとても心地良いし 」



「 お、俺もです。・・・あ、あの・・・シマさん 」



「 ん?何? 」


喜代一は視線を下にむけたまま何かモゴモゴしている


「 ? どうした?カワヤにでも行きたいのか?気にせずしておいでよ 」


「 ち、ちがいますよ!! 」


喜代一は顔が真っ赤にして否定する


「 なんだよ、それじゃ一体どうしたんだよ 」



「 シシシシシマさんっ あの・・・良ければ俺の・・・

俺の親に・・・会ってはくれませんか・・・! 」



「 ? 別にいいけど? 」


その言葉を聞くと喜代一の顔は電球に光がついたように明るく輝いた






少月一家にこの事を話すと、全員が騒然となった


「 ・・・シマさん。喜代一さんのご両親に会うという事は

どういう事かもしかしてわかっておられないんじゃないですか? 」


孔月がまじまじと聞いてくる



「 遊びに来いっていう事じゃないんですか? 」



「 あらあら、シマさんったら。やっぱりわからずに返事してしまわれたのね 」


祥子は苦笑い



「 え・・・遊びに誘われたんじゃ、なかったんですか?それじゃ一体 」


少月が喉をゴホンと整えると、落ち着いて聞くんじゃぞと口を開いた


「 ぬしを嫁に貰いたい。と言っておるのじゃよ 」



「 ・・・・・・・ぇ・・・誰が 」



「 もうっ喜代一さんがですよっ 」


祥子がすかさず突っ込みをいれてくる。



「 喜代一が・・・私を嫁・・・ 」


自分で”嫁”という言葉を口にした途端、首から上が熱くなった



「 私共は、喜代一さんは悪い方とは思っていません

むしろ、好青年と思っています。だからあの方の下へ

シマさんが嫁ぐ事は賛成です。しかし・・・ 」



孔月はそこまで言うと、口をどもらせ、黙り込んでしまった

祥子も、同じように黙ったままだ



「 孔月が言いたい事は、ぬし自身よくわかっていると思う

ぬしが決める事じゃ、ぬしの好きなように、決めるがいい

わしらは、ぬしが幸せになれるならそれでいいんじゃ 」



「 そうですよシマさん、ずっとここにいても私共は構わないんです

だから、シマさんがお決めになってください 」


祥子は両手で私の手を包み込み優しく微笑えんでくれた




次の日の夜、川の中にある大きな石に座り、月を眺めながら思いふけっていた


夜は大好きだ、夜中には山中に人はこないし、人の姿になってる必要がない


気を使わず、そのままの姿でいれる


今の本来の姿は、この恐ろしい夜叉なのだ



孔月が言いたかった事は少月が言った通り、自分自身がよくわかっている


私は、人じゃない。


年もいかなければ、死にもしない



それ以前に、私は喜代一の事をどう思っているかなんて



喜代一が私の主人になる?


あのタレ眉が?



わからない、わからない・・・


でも




ボーッと上を見ていると、後ろで草のこすれる音がした


振り返るとそこには、喜代一がいた


喜代一はきびすを返して走りさってしまった


しまった、ぼーっとして気配にきづかなかった


見られてしまった、この姿を


「 まっ待って!喜代一! 」


木の枝から枝へととびうつり、喜代一においつき、


喜代一の走ろうとしている方向に飛び降りた


喜代一は、腰を抜かしてへたりこんでいる



「 た、頼む殺さないでくれ・・・後生だ頼む・・・ 」


歯をガタガタいわせながら、私に手をあわせて拝んでいる


「 喜代一、私だ・・・ 」



「 ・・・そ、その声は、シマさん・・・? 」



「 そうだ・・・シマだ。今まで黙っていてすまない、嘘をつくつもりじゃ・・・ 」



「 くそ!騙していたんだな!最初から俺を食うつもりだったんだな! 」



「 ち、ちが・・・ 」


喜代一は地面に落ちていた太い木の枝を持つとやみくもに振り回し始めた


「 よるなああああ化け者めが!こ、殺されてたまるもんか!! 」



” 化 け 者 ”


その言葉を聞くと、私の中で何かが燃え滾った


「 お前なら・・・お前ならわかってくれると思っていたのに・・・! 」



振り回している木の枝を手ではらいのけると喜代一に乗りかかり、首を手で思い切り締め上げた



この姿を見られたからには、生かしてはおけない



ギリギリとしまる度に喜代一が声にならない声でもがく


その時、なにかが私の着物から落ちた



” チリリンッ ”



音が鳴った方へ目をむけると、それは父親にもらった帯止めが

土の上に転がっていた。




「 ・・・・・・ 」



絞めていた手をゆるめると、喜代一は喉を笛のようにならしながら咳き込んだ



「 そんなに、死にたくないか喜代一よ 」



その問に、喜代一は涙を一杯うかべて首を縦に何度も動かす



「 ならば今回は見逃してやろう、だがもうこの山には立ち入るな、

もしこの事を誰かに言おう物なら

私はお前を必ず殺しに行く、お前の家族もろともな

さぁ、命がおしくば今すぐこの場を去るがいい。 」



喜代一は何度もよろけて頷きながら、その場を去った。








少月の家に戻ると、自分の寝室に戻り、座り込む


手の中には、父親が作ってくれた帯止めがある



「 シマさん・・・?お帰りになられたんですか? 」


祥子はふすまごしにそう言うと、入ってもいいですか?と聞いてきた



「 ・・・どうぞ 」


スッとふすまが開いたと同時に、祥子が小さな悲鳴を上げた



「 シマさん!どうされたんですか!?そんなに着物を崩されて

土までついてドロドロじゃありませんか! 」



「 ・・・祥子さん、私はもうしばらく、この家のお世話になることにします・・・ 」


何かあったことを察したのか、祥子は正面に座り着物のそでで汚れた顔をふいてくれた



「 喜代一さんに・・・おっしゃったのですね 」



「 あいつは、化け者といって逃げていきましたよ。 ふふ当たり前です。

こんな姿みたら普通は恐れおののきますよ・・・ 」



「・・・シマさん・・・ 」



「 私は・・・私はやはりもう人では無い、化け者と言われて

私は自分を止めることができなくなった、私はあいつの首をしめて

殺そうとしたんです・・・そう、この手であいつを・・・

あの時、お父に作ってもらった帯止めを見なければ確実に殺していました

私は、夜叉だ、醜い化け者・・・ 」



握り締めた拳に涙がポタポタと落ちる


祥子は、濡れた頬に手をあてて、親指で涙をぬぐってくれた


「 お父はとめてくれたんです、私が人殺しになるのを

でも私は、私は・・・ 」



「 シマさん、お父様が作ってくださったその帯止めの人形のかぶっているもの

何というかご存知ですか? 」


首をよこにふると

祥子は優しく言葉を続ける



「 これは婚礼の時にかぶるもので、”角隠し”というんですよ

嫁ぐ相手に角をださず、従順になるという意味がこめられているそうです。

シマさん、私は人には誰しも身の内に夜叉を飼っていると思います

心が憎しみで溢れれば、それは夜叉になります。

だから角隠しというのではないでしょうか

憎しみに溺れれば誰もが夜叉になります

でもシマさんは溺れなかった。殺さなかった。

シマさんは夜叉の姿であっても、人の心をもっています。

だから自分の事を化け者だなんて思わないでください。 」



祥子は話終わると私の体を抱きしめてくれた

暖かい鼓動と温もりが伝わってくる



「 好きだったのですね、喜代一さんの事・・・ 」



「 ・・・えぇ・・・好きでした 」



角隠しの帯止めが、手の中で寂しく鳴り響き


頬にもう一度、悲しみがつたった。




角隠し 完
送ってくれると嬉しいです→


幸せ◆ ◆緑の家◆ ◆喜び◆ ◆角隠し

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-あとがき-


これは僕と猫と赤い角にでてくる鬼の過去の話です


年代はシマが山に迷い込んで家族を亡くしたのが今から150年近く前

少月と再会するのはそれから80年後なので、

今から70年程前の話(昭和11年頃)という設定にしています。

色々しらべつつかきましたが、色々ちぐはぐな所はかならずあると思います

そこは見逃してやってください。一応フィクションなので(逃げた

このキャラを使った話はこの先もすこしづつUPしていこうとおもいます

最後までよんでくださり、ありがとうございました

060513


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